水田に生える厄介者の雑草たち。
雑草は田んぼの生育場所や肥料などを奪い、水稲の生育を阻害します。その結果、肝心なお米の収量や品質の低下を及ぼすため、毎年頭を悩まされる厄介な存在です。
雑草の被害はそれだけでなく、コンバインでの収穫時に支障をきたしたり、ローターリーに絡まって機械の故障を及ぼします。作業時間が伸びて身体的疲労がたまるだけでなく、予想外の機械の修理にお財布に大ダメージを受けることも。
そんな厄介者の雑草を、効果的に防除するために欠かせないのが水稲除草剤。
今回の記事では、肥料農薬販売店で8年以上勤務してきた筆者が、水稲の栽培に適したおすすめの除草剤を種類別に紹介していきます。
除草剤を使用することで、結果的に作業時間の軽減や、コストの削減につながります。また水稲の多収・高品質化にもつながるため、上手に使用すれば多くのメリットをもたらしてくれます。
目次
水稲除草剤の種類について
水稲の除草剤には、処理する時期によって下記の3種類に分類されます。
発芽したばかりの雑草をこれ以上成長させない効果のある除草剤。発生の予防をメインとした除草剤で、主にノビエなどの予防を目的としています。
田植え前に処理するタイプの土壌処理剤の場合は、代かき後~田植え7日前まで。田植え後の雑草防除の場合は、田植え後約5日までに使用します。残効期間は15日~25日程度と短めで、生育初期のみに活躍する除草剤です。
適用雑草の範囲が広く、現在最もよく使われている除草剤です。水稲移植直後からノビエ3葉期までに使用します。一発除草剤の中でも田植え時から田植え後7日までに使用するものが「初期一発除草剤」。田植え後約14日までに使用するものは「初・中期一発除草剤」と言います。
残効期間は30日~50日と長く、雑草の発生が少ない水田であれば、一発除草剤だけで十分な効果が得られる場合もあります。
田植え後15日以降に使用できる除草剤で、初中期除草剤を処理した後にノヒエなどの発生が見られる場合に使用します。
初中期除草剤では処理しきれなかった生き残り雑草を、収穫前までにせん滅するのが目的の除草剤です。薬剤の処理適応期間が長いのが特徴です。
適切な除草剤の選び方
適切な除草剤を選ぶためには、前年の栽培時に見られた雑草を記録しておくようにしましょう。
昨年見られた雑草は、地下に種子や地下茎が残っているため、今年も必ずと言って良いほど姿を現します。
そのため、まずは昨年の雑草の発生状況に応じて、必要な有効成分の入った初中期一発除草剤を選びます。
初期発生する雑草の除草剤が決まったら、その後に生えてくる雑草を考慮して、中後期の除草剤を選定するのが良い選び方です。
また農薬によっては地域や圃場によって使用制限が掛けられていたりする場合があります。農薬を選定・使用する際は、予め自治体やJAから発表されている栽培暦などをご確認ください。
農薬の効果を最大限引き出すポイント
除草剤は適切に使用しないと、本来の効果を発揮できないことがあります。
おすすめの除草剤をご紹介する前に、除草剤を無駄にしないための重要ポイントについて解説していきます。
代かきと適切な水管理
代かきを丁寧に行って、田面を均等に整えるように心掛けます。除草剤は水の中で拡散して効果を発揮するため、水を張ったときに水深が均等になるようにします。そうすることで、ムラなく除草剤の効果を行きわたらせることができます。
適切な時期の散布
除草剤はそれぞれ対象となる雑草や、効果が期待できる葉齢期が異なります。散布適期からずれて散布してしまうと、効果が出にくくなってしまいます。特に葉齢期に関しては、散布が遅くなるにつれて効果が無くなっていきます。
除草剤の散布適期をしっかり確認したうえで、散布するようにします。
降雨前の散布は避ける
葉や茎に付着して吸収されるタイプの除草剤の場合、散布液が乾くまでの数時間は雨を避ける必要があります。処理する時は、天気予報を事前に確認してから散布するようにします。
また除草剤によっては、散布時の水田の灌水状態に違いがあります。深水にしないと薬害が出る恐れの薬剤もあれば、浅水状態で散布するタイプの除草剤もあります。
以上のように散布する際の要点を押えたうえで、おすすめの除草剤と散布方法についてご紹介していきます。
おすすめの除草剤
初期除草剤
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植代後から移植の7日前と、移植直後からノビエの1葉期まで使用できる、出芽させない効果のある除草剤です。
ノビエをはじめ、アゼナやホタルイにも効果の高い初期除草剤です。
動噴や散布機などを使わなくても、容器のまま畦畔から手振りすることができるので、作業の効率化にもつながります。田んぼの中に入って作業したり、液剤を薄めたりする手間が省けます。
出芽させない効果があるものの、出芽後はほとんど効果が出ないため、発芽前に散布するようにします。この後に散布することになる、中・後期除草剤と組み合わせた「体系処理」を行うことで、強力な除草効果を発揮します。
一発処理除草剤
多年生雑草の地上部だけでなく、地下部も抑える除草成分「アルテア」を最大量配合した多年生雑草に有効な一発除草剤です。
多年生雑草だけでなく、ノビエ・コナギ・ホタルイなどの雑草にも効果があります。
雑草の発生前から生育初期にかけて有効で、移植時からノビエ3葉期までに散布するようにします。剤型の種類も豊富で、フロアブルやジャンボ剤、ドローン散布に適したエアー粒剤も取り揃えています。
移植直後からノビエの3葉期まで使用できる一発除草剤です。
サキガケ楽粒は、北興化学工業が開発した新技術の拡散製剤です。その最大の特徴は、水田の中に入らずに田んぼ1枚分を散布することができる点です。
風上の畦畔の一辺から処理すれば、風にのって薬剤が水面を浮遊して広がるため、まんべんなく薬剤が行きわたります。水が張った水田に入らずに済むため、余計な体力を消耗せずに、省力的に散布することができます。
初・中期一発除草剤
ノビエの発生前から3葉期まで効果があり、後発生してくるノビエにも長期間抑制効果がある除草剤です。ノビエ以外にもホタルイやコナギ、オモダカ、クログワイなどの雑草に対しても高い効果を発揮します。
1キロ粒剤から豆つぶタイプ、ジャンボ剤まで幅広い剤型があります。特に豆つぶタイプは手撒きやひしゃく散布などの方法で、比較的簡単に散布することができます。また、散布した豆つぶ剤は水面を浮遊しながら勝手に拡散・崩壊するため、まんべんなく薬剤を散布することができるのでおすすめです。
中・後期除草剤
名前の通り、初期除草剤や一発除草剤で取りこぼしてしまった残党をツイゲキする除草剤です。
ノビエ、一年生広葉雑草、多年生雑草など幅広い雑草に効果があります。
雑草の発生前から生育初期のノビエ4葉期まで有効なので、取り残し雑草を見つけたら早めに散布するのが有効です。しかし、5葉期未満の水稲には薬害が発生してしまう恐れがるため、散布時期の見極めが重要になります。
散布の際は、やや深めの灌水状態(水深5~6㎝)にして、水の出入りを止めます。手撒きやひしゃく撒きで田面に均一に散布したら、自然に粒剤が水面を漂流します。少なくとも3~4日間は通常の灌水状態を保ち、散布後7日間は落水、かけ流しはしないようにします。
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残存したノビエに効果のある後期除草剤です。ノビエの発芽後から5葉期まで有効であり、水稲の収穫の30日前まで使用可能です。
ノビエに悩まされている圃場であれば、とりあえずクリンチャーを散布するがおすすめです。
散布の際は、水の出入りを止めて灌水状態(水深3~5㎝程度)にして、均一に散布します。ノビエの5葉期散布の場合は、水深を5㎝にキープして散布するようにします。水深が浅いと水稲に薬害が出る恐れがあるので注意しましょう。
散布後は3~4日間は灌水状態を保ち、散布後7日間は落水、かけ流しはしないでください。
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一年生雑草からカヤツリグサ科雑草、多年生雑草まで幅広い水田雑草に効果のある中・後期除草剤です。
防除が難しいとされるクログワイ、オモダカ、シズイなどの雑草にも有効です。
ホタルイや、ミズカヤツリ、ヘラオモダカでは発生盛期から増殖初・中期まで効果があります。また、オモダカでは発生盛期から発生揃期まで、クログワイでは草丈15㎝以下まで使用可能です。
薬剤の処理適応期間が長いため、雑草の発生を目で確かめてから薬剤を購入、処理できるのが大きなメリットです。
そのため、「薬剤を購入したけど結局使わなかった」というロスを防ぐこともできます。
散布の際は、落水またはできるだけ浅水状態にします。そして、散布後最低48時間はそのままの状態をキープするようにします。
まとめ
以上が水稲栽培に適したおすすめ除草剤です。
ご紹介した除草剤以外にも、農薬販売店が独自で販売する商品や、その地方特有の除草剤など数え切れないほどの商品が出回っています。
使用方法や使用場所が合わない除草剤を選択してしまうと、薬害の発生などを及ぼす可能性があります。
なので除草剤を選定する際は、自治会やJAから提示されてる暦や注文書を参照して購入するのが一番です。
今回は最後までご覧いただきありがとうございます。
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